こんにちはPR BANK編集長のShintaroです。
コラム2本目。長めです。
本日はFake News全盛の時代だからこそ、情報の発信主体が大切なのでは?
それを探すのってPRパーソンの役割ですよね?
といった内容です。事例を交えてお届けします。
これを考えさせられたきっかけは#ADBOXというオンライン広告サークル。
TBWA HAKUHODOの細田高広さんによる「2020年幻のカンヌ勝手に受賞予測」に参加しまして、フィルムを中心に多くの事例を解説いただきました。
その中で特に印象的だったのがNikeの「Never Stop Winning」という映像です。
文脈を理解し、改めて観ると鳥肌が立ちます。
目次
---
Fake newsの時代
当事者の言葉
ステークホルダーの発見
言霊は人を突き動かす
Relations with who?
「Relations Director」が必要な時代へ
---
Fake Newsの時代
香港デモ、ミネアポリス暴動、大統領選に都知事選…今やSNSでは様々な情報が意図的に切り取られ、プロパガンダに活用されることが日常的になりました。
せわしなくスクロールされるタイムラインには、情報の真意が検証される暇はありません。見出しだけで多くの記事は内容を読み取られ、悪意のあるライターはミスリードと炎上によるPV稼ぎを止めません。
こうした背景の中、起こっているのが「信頼性のマネジメント」です。
当事者の言葉
企業活動における「話者」は多岐に渡ります。広告はタレントが、HPではCEOが、SNSでは企業の声を代弁する「中の人」が —— 企業の想いは様々な語り手によって世に伝えられます。
SNSで顕著なのが企業の「人格」の提示。特に日清やSHARP、最近だとキンチョーなどが想像しやすいかもしれません。一方でトヨタイムズでは豊田章男社長が「過去に時間を使うのは、私の代で最後にしたい」とその覚悟を雄弁に語り、星野リゾートの星野佳路社長は観光業の先行きが見えない中で「マイクロツーリズム」という希望を指し示しました。
今起きていること、それは「何を語るか?」と同じ程「誰が語るか?」がより一層重要性を帯びているということです。発信主体により言葉が文脈を宿す。親近感/熱狂/希望…生み出したい聞き手の感情によって話者を選択する能力が問われています。
ステークホルダーの発見
ここで「誰が語るか?」に関連する、事例をいくつかご紹介します。
Never Stop Winning (Nike)
冒頭にご紹介した動画です。
アメリカの女子サッカー代表選手で、2019年W杯のMVPを獲得したミーガン・ラピノーのスピーチによる1分間。ピッチで躍動する女性達が白黒写真でドラマチックに描かれ、その上に興奮気味なスピーチがボイスオーバーされています。内容は是非一度動画をご覧ください。スポーツにおける男女格差の是正を入り口に、「ピッチを飛び出しても女性達は勝ち続けていく」という壮大なメッセージが最後に投げかけられます。
2018年コリン・キャパニックの広告起用の翌年に公開された動画ということもあり、社会問題に勇気をもって切り込むNikeの姿勢に共感を得た人は多いのではないでしょうか?
この動画に対して、冒頭に触れた細田さんの解説は以下のような内容でした。
「これをコピーライターが書いたら嘘になる、彼女が語ったことにより真実味を帯びる」
さあ、この髪でいこう。#HairWeGo(Pantene)
染めない、隠さないグレイヘアで、多くの女性の賞賛を得た近藤サト。生まれたままの髪の個性が、世界中の人々に愛された爆毛赤ちゃんbabychanco。
パンテーンはこの2名を起用して「なりたい私」を応援するとう、ブランドの姿勢を伝えました。広告上で彼女たちが直接的に何かを語っているわけではありませんが、その生き様に共感し手を取り合うブランドの姿勢は国内外で多くの評価を得ました。
また、競泳・池江璃花子選手は白血病の闘病後、「今日、みなさんに初めてこの姿をお見せします。」と、ファンに向けて手紙と写真を公開しました。
その際にパートナーシップを組んだのがSK-IIです。ここでも「自らの意志で運命は変えられる」というブランドメッセージがアスリートの生き様に投影されて伝えられました。
企業やブランドの姿勢を示す際に、最も効果的なステークホルダーは?上記のいずれの事例もそのパートナーの発見力、そしてその実現力が素晴らしいです。
言霊は人を突き動かす
企業によるコミュニケーションではありませんが、「話者×言葉」の力を感じさせる事例をもう2つだけご紹介させてください。
“Please I can't breathe”
ミネアポリスで起こった悲痛な事件。悲劇を起こさない為に世界中の人々がアクションを起こしました。被害者のジョージ・フロイド氏が警察に拘束された際に残した言葉がこの“Please I can't breathe”という言葉。後のデモ活動の際にこの言葉は人種差別問題が孕む悲痛な叫びを表す際に用いられました。
彼の死から1週間後。遠く離れたベルギーで、この言葉がグラフィティという違法な形で電車に描かれました。ヨーロッパを拠点に活動する1UPcrewによるものと思われ、その映像はニュースを通じて全世界に配信されました。そして、この車両を保存する為に集まった署名は1.8万件以上にも上っています。
文字面以上の何かを感じさせる言葉。そこに伴う文脈の力を感じさせます。
「言葉の力を信じている」
6月10日にUPされた1曲のMVが話題を呼びました。
まだ見ていない方はネタバレしてしまうのでまずは動画をご覧いただきたいと思います。
作品中のLo-fi Hiphopを思わせるトラックとループするアニメーションに心地よく耳を傾けると、歌い手の半生が語られていきます。所属するHipHopクルーの解散、医学を志す決意、30代という年齢がネックになり、筆記は通れど面接に苦戦する様子。そしてついに地方大の医学部で合格を得たところで、実際に放映されたニュースの音声がカットイン。
——「大学側の調査の結果、合格点に達していたことがわかりました。」「33歳という年齢は、私どもの大学に入る年齢では高いものと認識していた。」「不正ではない。」「私たちも一緒にそういうところを勉強させていただく。」
ここで視聴者はこのストーリーが現実のもので、2018年にメディアを騒がせた医学部入試の不正問題について語られているものだと気づかされます。
公開から2週間がたち動画の再生回数は40万回を越え、HipHopクラスターを越え更に広範囲にこの話題は広がり続けています。いくつもの「仕掛け」を盛り込んだこの作品の語り手は、かつて友人にこう語っていたそうです。
「言葉の力を信じている」。
Relations with who?
こうして「誰が語るか?」(誰の言葉か?)ということが重要性を帯びる現代において、一つの重要な役割に気づかされます。それは本来「PR」という言葉が持つ「Public Relations」の機能です。企業やブランドの広聴機能を担い、あらゆるステークホルダーを設定する。
そして実際にそのステークホルダーとの良好な関係を築いていく、という役割です。
「Relations with who?」は電通CDCの嶋野裕介さんの言葉を引用しています。コミュニケーションプランを組み立てる際に”ターゲット”だけでなく”パートナー”を設定する必要性を語っておられました。「当事者の言葉」を借りる際にも、まずは誰と一緒にそのビジョンを達成できるのか?を考えるべきなのかもしれません。
「Relations Director」が必要な時代へ
様々な価値観が飛び交い、目まぐるしいスピードで変化が訪れる現代において、この「Relations」をマネージメントする役割は益々重要性を帯びています。
PRパーソンはメディア・リレーションやインフルエンサー・リレーションズの領域を拡張し、こうした役割を担うべきだと考えます。そしてその能力はいざモノを広めるフェーズでなく、もう少し手前の何を語るか?という段階で発揮されるべきです。
Creative DirectorやArt Director、Communication Directorという役割が存在するように、こうしたステークホルダーとのリレーションを包括的に担う役目としてRelations Directorという存在があっても良いかもしれません。
※既に「Public Relations Director(広報責任者)」という肩書は存在しますが、「PR=広報」というイメージが定着してしまった日本においては、敢えてその意味を分けるべき?と考えています。
そしてまたリレーションを担う主体者である以上、相手からの信頼を勝ち取る為に自身が何者かを示す必要があります。「黒子」を美徳としていたPRパーソンの価値観は、新しい時代においてはアップデートされるべきなのかもしれません。
0コメント